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<かっこよくない優しさがそばにあるから。かっこよくない優しさに会えてよかったよ>          <たとえば誰かのためじゃなくあなたのために>
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明るみでごそごそと鞄のなかをさぐれば
探していた物はとりあえず見つかった。
しかしそれを取り出すことは困難で、
しかしこんな電灯下の道端で
おおっぴらに荷物を広げるわけにも行くまい。
結局探し物、さっきから鳴り続けている携帯は
鞄の底に埋まり、ひびの入った右手で取り出すことは叶わなかった。

不注意と言えば不注意だが、
正直に言えば私が謝る理由など無かったはずだ。
しんと静まった会議中にプルルと鳴り響いたのは上司の携帯。
それを見て思い切り固まったのは私を含めたその部下たち。
上司の更に上司たちは、上司が携帯を取り出す様を見て
不愉快そうに眉をひそめ、それに気付かぬ上司は
慌てることなく焦ることもなくいとも簡単に電話に出た。
その内容は会話を聞くからに、奥さんが出産したとかで
手短に会話を終えた上司は急いで荷物をまとめると
子供が生まれたので、と言い残し走り去った。

まさか嘘だろ、そんな風に皆が息を呑むのを感じた。
鼻歌交じりに帰って行った上司の背中はもう残像にすらなくて
私たち部下はとりあえずこの場をどうするべきか、
それで頭いっぱいだった。
だというのに、しびれを切らした今回の会議のトップである
上司がいきなりたちあがり、思い切り机に脚をぶつけた。
その上司が酷く傷ついたと言うわけではないが、
その反動で机は傾き、見事にと言うべきか、私の元へ倒れてきた。
机の上には書類だけでなく、みなの飲んでいるものがあるので
必死に机を押さえようと試みた。
しかしその試みはほんの数秒で打ち砕かれ、
思い切り床と机に指を挟まれることとなった。
親指と小指をのぞいた3本の指に綺麗にひびをいれた私は
なぜだか必死に謝った。
机をおさえきれず倒してしまった事に対してなのか、
途中で帰ってしまう上司の部下であるからなのか、
理由はまるでわからない。自分でもわからないというのに
その場の上司共は偉そうに「構わん」と言い去った。

「"構わん"じゃないっての、私の指がいかれるわ!」

携帯の鳴り響く音は恐らく奴だろう、
あたりが真っ暗になるまで帰らずしかも連絡とないときたら
幾らあの男でも連絡してくるのだな、
そう思うと少しだけだとしても、心配されているのかもしれない、
と嬉しくなった。
だがその連絡にこたえることができぬまま、帰路をゆっくりと歩いている。
彼処の角を曲がれば見える、そう思った瞬間、

「なァんで電話にでねェかなァ?」
「・・・・・・見てよこれ、怪我しちゃった」

敢えて質問には答えず、かといって急に現れたことに驚きもせず
今日一日私は頑張ったのだという証を見せつけてやった。
そうすると流石に少しは驚いたのか、ぴくりと眉を動かして
私の右手を優しく持ち上げた。

「なんだこりゃ、何やらかした?」
「やらかしたっていうか・・・頑張った結果これっていうか・・・」

目の前の銀色を放つ彼は呆れたようにため息を吐いた。
だけどその顔には見捨てたような表情はなくて、酷く安堵した。

「ま、いいわ。さっさと帰るぞ」
「うん」


携帯の鳴る音はしばらくトラウマになりそうだったけれど
ふっと笑った銀時の顔を見て、
あぁ今日一日頑張ったなぁと自分を褒めてやれた。
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